尾形光琳(1658~1716)が、光悦蒔絵を模して制作した蒔絵硯箱。大胆に切った鉛板を嵌め込んだ岩や、金蒔絵による波間の所々に、銀板でかたどった「すみの江の(岸)に寄(浪)よるさえや夢の通路人目よく覧」の文字が散らされ、『古今集』巻十二、藤原敏行の恋歌を意匠化したと知られる。箱蓋裏に、光琳が「鷹峯大虚庵住物、光悦造以写之、法橋光琳(花押)」と記すので、本阿弥光悦の硯箱に倣った作品と知られる。手本は光悦作「舟橋蒔絵硯箱」(国宝、東京国立博物館蔵)であろうと考えられている。