奈良時代には仏教の広がりとともに、国家事業としても写経が盛んに行われ、それは明確な役割分担をした写経所のスタッフが担いました。平安時代、貴族は手習い(=習字)を大事な教養として学び、その和様の書は美しく装飾した料紙の上に流れるような線で書写されます。鎌倉時代にその萌芽がみられ、室町時代の禅宗文化や唐物の流行を象徴する水墨画は、墨のトーンを巧みに用い、鑑賞者を絵画空間へいざないます。
その時々でさまざまに用いられ、時代の美意識を如実に表現する墨。本展では、「古写経」「古筆」「水墨画」に注目し、静嘉堂所蔵の名品約30点を通して、多彩で奥深いモノクロームの世界をわかりやすく紹介します。
奈良時代を代表する古写経の一つで、光明皇后(701~760)が父藤原不比等(ふじわらのふひと)(659〜720)と母県犬養三千代(あがたのいぬかいのみちよ)(橘三千代、?〜733)の追善供養を目的に発願した一切経(いっさいきょう)です。「写経体」と呼ばれる謹直な字で書かれています。
雲母で亀甲の文様が刷られた唐紙(からかみ)を料紙に用い、『古今和歌集』の四季の和歌を流麗な仮名で散らし書きした、平安時代後期の古筆切。料紙の上部に和歌を集約し、右下に「つらゆき」(貫之)と添えています。武士で茶人でもあった佐久間真勝(実勝、1570~1642)が元和7年(1621)に建立した「寸松庵」に伝来したことから、その名称があります。
藤原公任(966~1041)の撰による588首の漢詩句と216首の和歌からなる詩歌集『和漢朗詠集』下巻の一部。当時、大陸から舶載された華麗な唐紙に、金銀泥による大和絵風の下絵を加え、漢詩と和歌を墨書した巻子装です。その仮名は大小さまざまに変化をつけた大胆かつ軽快な書風です。二巻のうち一巻のみ展示。
15世紀に流行した画僧・周文の水墨山水画のスタイルの中でも、最も成熟した作。本屏風は右から左へ四季が移ろい、深遠な山水空間が広がります。鑑賞者は右端の楼閣のテラスで語らう二人の後ろ姿に導かれ、春の訪れを告げる梅樹、その向こうに屹立する山に圧倒されます。左隻の遠山は真っ白な雪山です。計算しつくされた構成と見事な筆墨による大気の表現は圧巻。
会期:2019年8月31日(土)~10月14日(月・祝)
休館日:毎週月曜日(ただし9月16日・9月23日・10月14日は開館)、9月17日(火)、9月24日(火)
開館時間:午前10時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
入館料:一般1,000円、大学生・高校生700円、中学生以下無料 ※20名様以上の団体は200円割引
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