本展は、静嘉堂では初めての、“染織”をテーマとした展覧会です。
わが国特有の発達をみせた茶の湯文化、そして文人の嗜みとして流行した煎茶文化の世界では、中国をはじめ海外から広く舶載された文物を用い、大切に伝えてきました。その内には「金襴(きんらん)」「緞子(どんす)」「間道(かんどう)」など、今日“名物裂(めいぶつぎれ)”と総称されているような高級な染織品も含まれ、それらは室町時代以降の唐物賞玩のなかで、絵画・墨蹟の表具裂や、茶入を包む袋、「仕覆(しふく)」(仕服)となり、茶人たちの鑑賞の対象となりました。
また江戸時代以降、型や手描きによる草花・鳥獣・幾何学文様などを色鮮やかに染めた木綿布“更紗(さらさ)”が、ポルトガルやオランダの南蛮船や紅毛(こうもう)船、中国船などによってもたらされると、これも数寄者たちを大いに魅了しました。とりわけ江戸時代中期頃までに輸入されたインド製更紗の一群は、後世“古渡り更紗”と呼ばれ、茶道具では箱の包み裂(つつみぎれ)に、煎茶道具では、茶銚(ちゃちょう)・茶心壺(ちゃしんこ)などの仕覆や敷物として重用されました。
永い歴史をへて、今日に美しいデザイン、繊細な手の技を伝える染織の優品を、この機会にどうぞご堪能下さい。
静嘉堂所蔵の曜変天目(「稲葉天目」)には2つの仕覆が添っています。これは、茶碗でありながら大変珍しいことです。
曜変天目とともに稲葉家から伝来した「紺地二重蔓牡丹唐草文金地金襴仕覆」と、岩﨑家の所蔵となってのちに(昭和9年以降)新たに誂えられた「白地雲文金襴仕覆」は、曜変天目の格に相応しい名物裂の逸品で、いずれも中国・明時代、今から5~600年ほど前に製作された貴重な絹織物です。
本茶入は、千利休(1522~91)所持によって名があり、のち徳川第三代将軍、家光から伊達政宗に下賜されて以降、仙台藩主・伊達家に長く伝来した“大名物(おおめいぶつ)”の茶入です。牙蓋(げぶた)や中国漆器の盆、それにアジア圏の多様な染織品が加えられ、その次第(付属品)は実に国際色豊かです。何百年も前の染織品がいまだ“現役”で用いられているというのも、日本の書画の表具や茶道具ならではのことで、驚かれる事実です。
挽家の仕覆(「蜀江錦」)の前には、貴重な中国やインド製の名物裂、刺繡からなる、丸くかわいらしい仕覆が5つ。 “緒つがり”と呼ばれる紐の部分も、それぞれ異なる配色で仕立られた、仙台藩主・伊達家の見事な“仕覆コレクション”です。
肩の張った姿のこの茶入は、唐物肩衝茶入「樋口肩衝(ひのくちかたつき)」で、樋口石見守知秀が所持、のち徳川家康-伊達政宗-徳川家光-伊達忠宗・・・と伊達家に長く伝来した“大名物”茶入です。仕覆は2つ付属しています。
右側の「白極緞子(はくぎょくどんす)」は、足利義政に仕えた鼓打ちの名手「白極」が義政から拝領した鼓の袋裂であったことに由来するといい、襷(たすき)の地に丸い鳥文が配されています。
もう一つの「望月間道(もちづきかんどう)」は、茶人・望月宗竹(1692~1749)所用の裂からの名とも言われています。一見地味なこの裂を拡大して見ると、赤茶・白・縹(はなだ)色(青)の色糸が変化をつけて織られていることがわかります。
安土・桃山時代、“茶の湯”が大成されてゆく過程で、竹茶杓・手桶水指・樂茶碗が茶席で用いられるようになり、棗(なつめ)もまた、武野紹鷗(1502~55)や千利休(1522~91)ら茶匠の好み物が制作されました。黒塗りの棗は、茶入同様に大切に扱われたため、これにも優れた仕覆が複数添うことがあります。
千利休ゆかりのこの棗には、金襴の見事な名物裂仕覆2つと、蓮池水禽文を繊細に織り出した裂の仕覆が添っています。
江戸時代後半から盛んとなった煎茶文化に目を向けると、インド製の異国風の文様が鮮やかな木綿布-「更紗(さらさ)」が江戸時代中期ころまでに少なからず輸入され、持ち主が愛玩する茶銚(ちゃちょう)(横手の急須)や茶心壺(ちゃしんこ)(茶葉を入れる錫製の茶器)などの仕覆や、道具の風呂敷などに仕立てられました。大判の布地はそのまま、煎茶会を国際色豊かに演出する敷物として利用されることもありました。
茜・藍・白地に異国風の可憐な花模様、丸文や菱文、亀甲文・幾何学文などさまざまなデザインが見られます。「名物裂」と同様、日本の数寄者たちは、「更紗」においても “○○手”などと名を付けて分類し、大切に伝えてきました。
本展出品の煎茶道具の仕覆の中には、文様の線描の上に濃密な金を置いた、貴重な「金更紗」で仕立てられたものがあります。保存良く伝えられた、キラリと輝く金更紗の繊細な美しさを、是非間近でご鑑賞ください。
「Trio Allegretto」(トリオ アレグレット) ソプラノ・チェロ・ピアノの男女3人組。
♪ソロありアンサンブルあり。わらべうた、クリスマスソングなど、軽快(アレグレット)で心地よい演奏をお届けします。皆さまとご一緒に歌いましょうコーナーもお楽しみに。