※会期中、作品の展示替えを致します。
「天の美禄」「百薬の長」と称えられる酒。婚礼や宴(うたげ)といった祝いや別れの席、また日々の暮らしのなかなど、人生のさまざまな場面で酒が酌(く)まれ、盃が交わされます。
古くから東洋では、酒は神に捧げ、神と人とをつなぐための神聖なものとされ、それを盛る荘重な酒器もまた祭や儀式の中で重要な役割を果たしてきました。やがて飲酒の普及にともない、四季折々の風情やもてなしの趣向にあわせた多彩な酒器が生み出されました。本展では、酒を盛る・注ぐ・酌み交わすうつわ、そして酒を呑む人びとをテーマに、およそ3000年前の中国古代から幕末・明治時代まで、中国・朝鮮・日本の豊かな酒器の世界と酒をめぐる美術を紹介します。うららかな春の陽気のなかで酒器の美に酔ってみませんか?!
鍋島焼は、徳川将軍家への献上品や諸大名への贈答品として、佐賀藩鍋島家が最高の技術と材料を集めて作らせた特製の磁器。気品溢れる本作は、盛期の鍋島藩窯(なべしまはんよう)の水注として唯一伝わるもの。色絵の牡丹のしべや唐草の縁どりといった細部に、鍋島焼では稀な金彩が施され、また注口や把手(とって)には金蒔絵で主文様と同じ牡丹唐草があしらわれている。八代将軍・徳川吉宗(1684~1751)による私的な注文に「センサン瓶」として記録される品であった可能性も指摘されており、この特別な仕様もうなずかれよう。
金属器をモデルとした把手付きの盃。見込みに水禽の遊ぶ水辺の景を白と黒の象嵌であらわし、龍首の彫刻など総体に精緻な作振りを見せる。青磁の素地に文様を彫り、白土や黒く発色する赭土(あかつち)を埋め込む象嵌青磁の技法は、高麗青磁を特徴づける特殊な装飾技法となっている。
中国の民間伝承による八人の仙人、すなわち鐘離権(しょうりけん)・張果老(ちょうかろう)・韓湘子(かんしょうし)・李鉄拐(りてっかい)・曹国舅(そうこくきゅう)・呂洞賓(りょどうひん)・藍采和(らんさいか)・何仙姑(かせんこ)が、西王母(せいおうぼ)の誕生日を祝うために揃って海を渡り、西の彼方・崑崙山(こんろんさん)にある瑤池(ようち)へと赴く図、いわゆる「八仙渡海」を描いた瀟洒な杯。本作のように、青花で輪郭を描いた文様に淡い緑を主体とする上絵付を施す技法を「豆彩」と呼んでいる。高温で焼き上げられた磁器の素地は、透きとおるような薄さに仕上げられている。
提重は「提げ重箱」の略称で、「行厨(こうちゅう)」ともいい、重箱や取り皿、酒器などを加えて一箱に収め、提げ手をつけたもの。いわばハレの宴用の弁当セットであり、花見や紅葉狩り、祭りや芝居見物といった遊山行楽など、用途に応じて目的に相応しい意匠の器が作られた。本作は菊の咲き誇る山水を色調の異なる数種の金蒔絵であらわした提重で、菊花を打ち出した銀製の徳利には一部鍍金が施され、まばゆいばかりの豪華な意匠である。
三つ重ねの平盃にそれぞれ3人の人物の故事を蒔絵で表している。大盃には桃花の下に三国志の英雄、劉備・関羽・張飛が集い義兄弟の誓いを交わす「桃園の誓い」、中盃には水墨画の画題として著名な「虎渓三笑」の故事から慧遠法師・詩人の陶淵明・道士の陸修静を描き、小盃には3月の節句に飾る雛人形にも見られる笑い上戸・泣き上戸・怒り上戸の三仕丁(三人上戸)をあらわす。三仕丁は紅葉の下でその枝を焚いて暖をとりながら酒宴を張っているが、これは『平家物語』巻六「紅葉」の高倉天皇と仕丁たちとの逸話に基づくもの。「虎渓三笑」のみ本来酒と直接関わりのない故事だが、図中では三人につき従う童子が大きな瓢箪を担いでおり、山寺での清談が酒を伴うものだったと想像しているのが微笑ましい。
「祝樽(いわいだる)」もしくは「角樽(つのだる)」と呼ばれる祝儀用の木製の樽をモデルとした色絵磁器の徳利。上面に小さな穴が開いており、そこに竹筒などを差し込んで注口としたものだろう。胴部はハート形の猪目繋(いのめつな)ぎを地文として、前後に小禽と楼閣山水を描いた繭形の窓絵を配し、左右に丸文二つをそれぞれ縦に並べて描いている。濃い赤を主体とした色彩によって慶賀の趣きが高められている。
茶壺を模した段重で、三段に分かれ、下段・中段は酒肴を入れ、上段は酒を入れて徳利のように使ったものと考えられる。牡丹と丸文をあしらった方形の裂「口覆(くちおおい)」と紅色の組紐をあらわすことから、茶の湯の世界で茶人の正月ともいわれる「口切(くちきり)の茶事」の際に茶壺に施す華やかな壺荘(つぼかざり)をイメージした意匠であろう。胴部には歳寒三友のうちの松竹が描かれている。
中国古代青銅器の中心をなすのは、「彝器(いき)」と呼ばれる祖先などをまつる祭祀や儀礼に用いられるさまざまな種類の容器や楽器で、高度な技術の粋を極めた宝物として重視された。「尊」は酒を盛り、神や祖先の霊前に供えるための器。本作は高い脚部をもつ特徴的な形式から、陝西省の漢中地域で商代中期から殷墟期初頭に制作されたものと考えられる。清代に発掘されて日本に渡り、幕末~明治時代に流行した煎茶席のかざりとして珍重されたものだろう。
胴部が豊かに張り出した大徳利で、早くから柿右衛門の名品として知られた作品。ヨーロッパ輸出用に作られた通常の柿右衛門様式の磁器とは異なり、わずかに青みをおびた釉薬のかかる白磁に、画面いっぱいに尾羽を広げる鳳凰を丁寧な筆致で描き、桐花を散らしている。上絵付の黒い輪郭線の筆法や舞い降りるような鳳凰の形姿が金襴手様式に近似しており、17世紀末から18世紀初めころ、国内の特別な注文により制作されたものと推測される。
会期:2018年4月24日(火)~6月17日(日)
休館日:月曜日(4月30日は開館)、5月1日(火)
開館時間:午前10時~午後4時30分(入場は午後4時まで)
入館料:一般1,000円、大高生700円、中学生以下無料
※団体割引は20名以上
※リピーター割引:会期中に本展示の入館券をご提示いただけますと、2回目以降は200円引きとなります。
展示内容・作品について担当学芸員が解説します。(展示室にて)
午前11時から 5月5日(土・祝)・6月2日(土)
午後2時から 5月17日(木)・6月14日(木)